銀行の「顧客情報確認(KYC)」に生態認証とAIが注目 -フィンテック企業と提携し高度なコンプライアンスを実現

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ネットショッピングなどオンライン上での支払い件数が増えるなか、銀行業界では個人情報保護に加えてマネーロンダリング(マネロン)などの金融犯罪対策の重要性がますます増してきています。金融機関がイノベーションの一環として先進ITの実用化を図るなか、特に金融犯罪対策に関しては生態認証(Biometrics)と人工知能(AI: artificial intelligence)が注目技術となっています。


【目次】
・背景
・金融業界で注目される生体認証技術
・KYC領域サービスを開発するフィンテック企業
・金融業界で進むKYC領域のフィンテック企業との協業、フィンテック投資
・新KYCサービスに関する議論
・日本の金融業界におけるマネーロンダリング対策
・まとめ
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<背景>
✓近年、ヨーロッパの銀行業界では、マネーロンダリング対策が不適切な結果、反社会的勢力・団体による金融取引事象が発生したとして、各国金融当局から複数の銀行に多額の課徴金支払いを命じられるケースがありました。BNP Paribas(BNPパリバ)やHSBCも課徴金支払いも命じられており、各社決算に響くほど多額となっています。銀行にとっては、こうした事件が取り上げられると、収益が減少するだけでなく、レピュテーション低下(風評被害)となり、顧客が流出する原因の一つとなりえます。そのため、今まで銀行はマネーロンダリング対策に多額の資金を投入し、防止策を進めています。


✓オンライン上での取引が簡単にできる社会環境が整うなか、世界中の金融当局は銀行、証券会社、保険会社などの金融機関に対するマネーロンダリング対策強化を進めています。金融機関は、顧客の過去の金融取引に疑わしいものがないか、登録している個人情報・法人情報に疑わしいものがないかなどを確認することが求められており、人的リソース面でも、コスト面でも大きな負荷となっています。


✓金融業界では、マネーロンダリング対策などの法令上求められる規制対応をコンプライアンス対応(compliance、法令順守)とも言いますが、ヨーロッパではKYC(Know Your Customer)やAML(Anti Money Loundering、アンチマネーロンダリング)と呼ばれることが一般的です。KYCとは、金融取引を行う際に行われる顧客情報の確認のことを指します。読者の皆様も、銀行口座を開設する際に運転免許証などを提示したことがあるでしょう。また、ネットバンキング上で送金をするために、単なるパスワード以外の情報の入力を求められた経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。



<金融業界で注目される生体認証技術>
✓上記のとおり、金融業界では今までと異なる新たなKYC手法が出てきていますが、中でも顔認証、指紋認証、光彩認証、声紋認証などの生態認証(Biometrics、バイオメトリクス)が特に注目されています。


✓これらの技術が注目される背景には、「消費者の利便性」の観点もあります。このニュースをスマートフォンで読まれている方もいらっしゃれば、パソコンで見ている方、タブレットで読まれている方もいらっしゃるでしょう。また、通勤時はスマートフォンで、カフェではタブレット、家ではパソコンと、複数の端末を利用している方も多いのではないでしょうか。このようにマルチデバイスを利用する消費者が増える中、スマートフォンでしか認証できないシステムはとても不便です。この点例えば光彩認証では、カメラがあればどの端末でも利用できます。ご利用のスマートフォンやタブレットにはカメラがついているでしょう。また、お持ちのパソコンにもカメラがついている方も多いのではないでしょうか。



<KYC領域サービスを開発するフィンテック企業>
✓ヨーロッパのスタートアップ業界にはKYC領域のサービスを開発する企業が多数存在しています。KYC領域のスタートアップは、先進ITを駆使して今までになかったイノベーティブな個人情報確認サービスを開発しています。


✓社会的な影響力からも、他の業界にくらべて高いコンプライアンスが求められる金融業界では、上述の通り今までもマネーロンダリング対策に多額の資金を投入してきましたが、課徴金を支払される羽目になるケースがいくつもありました。また、ITベンダーとの共同開発には多額の資金と期間を要することが多くありました。


✓こうした背景から、金融機関は、KYC領域のサービスを開発するスタートアップと手を組み、今までの手法よりも洗練された顧客情報確認手法をはやく、そして安く開発しています。ここでは、KYC領域のサービスを開発するスタートアップ2社を紹介します。


《Crosswise》
 ・2013年にイスラエルのテルアビブで設立されたスタートアップ
 ・クラウド技術により、マルチデバイスでの顧客情報確認ができる
 ・人工知能・マシーンラーニング(ML)による顧客情報を分析
 ・Crosswiseの高い技術力が評価され、2016年にアメリカの大手IT「Oracle」が買収
 ・URL: https://www.oracle.com/corporate/acquisitions/crosswise/index.html


《Ping Identity Corporation》
 ・2002年にアメリカのコロラド州で設立されたスタートアップ。資金調達を何度も繰り返し、従業員も250名以上在籍
 ・複数の生態認証を登録でき、マルチデバイスで利用可能
 ・登録した顧客情報(個人情報)を複数の会社、公共サービスで利用可能
 ・高度なサイバーセキュリティ能力が特徴
 ・URL: https://www.pingidentity.com/en.html



<金融業界で進むKYC領域のフィンテック企業との協業、フィンテック投資>
✓金融業界でKYC領域への関心が高まるなか、KYCサービスを提供するフィンテック企業への投資が拡大しています。世界のスタートアップ情報を調査するCrunchbaseによれば、2016年中に行われたKYC領域のスタートアップへの投資額は、60億ドルにも上ります。2017年にはさらに多くの資金が注入されていると予想されています。


✓金融業界でのマネーロンダリング対策における先進IT利用についてデロイト(Deloitte)のDerek Ryan氏は、「技術の進歩により、高度なKYCサービスが標準化する時代がくる。金融機関にとって人工知能やマシーンラーニングによる顧客情報確認の自動化は目前に迫っている」と述べています。Ryan氏は、金融機関にコンプライアンス対策関連のアドバイスを行っており、現在(2018年4月)もある金融機関とともに新たなKYCサービス開発に向けて実証実験に取り組んでいます。


✓銀行・決済技術を開発するアメリカのFidelity National Information Services (FIS、フィデリティ・ナショナル・インフォメーション・サービス)も、「オンライン上での取引する人が増えるにつれ、現在一般的となっている認証システムは使えなくなってくる。ほとんどの現在の認証システムはもはや信頼性が高くない」と述べ、新技術の導入の必要性を訴えています。FISは、イギリスの銀行Barclays(バークレイズ)やスイスの銀行Credit Suisseなどの金融機関以外にも、PayPalなどの決済サービスを開発するIT企業等にサービスを納品しています。こうした信頼のあつい企業が上記のように断言していることからも、新しいイノベーティブなKYCサービスが開発され普及するのは時間の問題でしょう。なお、FISは、2017年8月に「OnlyID」という新KYCサービスを発表しています。OnlyIDは、一顧客がもつ複数の銀行口座情報やオンラインショッピング履歴などの情報を収集し、その顧客の将来の消費行動やマネーロンダリングの疑いがないかを分析して算出します。


<新KYCサービスに関する議論>
✓OnlyIDのように、高度な情報収集能力、分析技術をもつサービスは、金融機関のコンプライアンスにおいて効果を発揮することが予想されます。一方で、個人情報保護の観点からの懸念が指摘されています。上記のOnlyIDの説明を読まれた方の中には、「凄い技術だな」と思われた方もいるでしょうし、「わたしのネットショッピング履歴が銀行に見られるの?」と不安に感じた方もいらっしゃるでしょう。

✓2018年5月からEU(欧州連合)では「General Data Protection Regulation:GDPR(EU一般データ保護規則)」という個人情報保護規制が開始します。金融機関のみならず、EUに拠点をおく全ての企業が規制の対象となります。GDPRでは、個人情報の処理、個人データの移転、個人情報に関する個人の基本的権利などが定められておりますが、対応を怠った企業には最大で2000万ユーロか世界での収入の4%の高い方が課徴金として課される非常に大きな制裁がなされます。

✓GDPRを前に、金融機関は個人情報の収集や取り扱いに敏感になっています。フィンテック業界ではこれを好機として、「GDPRに則ったKYCサービスを開発している」と謳うフィンテック企業が多数現れています。



<日本の金融業界におけるマネーロンダリング対策>
✓各国政府が相互にマネーロンダリング対策の状況を確認し合う「マネーロンダリングに関する金融活動作業部会(FATF:Financial Action Task Force on Money Laundering)」という政府間会合があります。FATFは、毎年対象国を決めて各国の規制や金融機関の取組状況を確認しています。


✓日本では、2019年にFATFによる4回目の取組状況確認「第4次対日相互審査」が予定されています。第3次対日相互審査では日本の法令整備が遅れていることが指摘され、金融庁は2016年に犯罪防止移転法を改正するなどの早急な対策を迫られた経験があることから、第4次では指摘されないよう既に金融機関の実態調査を開始しています。



<まとめ>
・オンライン上にある消費者の個人情報、支払い履歴が増加するなか、金融業界ではマネーロンダリングなどのコンプライアンス対策が急がれている。
・KYC領域の先進ITでは、光彩認証などの生態認証(バイオメトリクス)と人工知能(AI)が注目されている。
・KYCサービスの洗練化が進むと、反社会的勢力による資金洗浄が減ることにくわえて、私たち消費者にとっても金融取引が便利になる。



関連記事「HSBCが人工知能(AI)によるマネロン検出を開始 -世界中の銀行業界で加速する金融犯罪対策」はこちら↓
http://fintechnewslondonfintechjagi.sokuho.org/article/hsbcaispotmoneylaunderingbankcleanupfinancialcrime.html



(参照:金融庁「「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(案)」及び「主要行等向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)の公表について」)
https://www.fsa.go.jp/news/29/20171208/fsa_maneron2912.html

(参照:Financial Times「Banks deploy ID software for client verification」2018.3.26)
https://www.ft.com/content/2f79164a-15a7-11e8-9c33-02f893d608c2

(Fidelity National Information Services HP)
https://www.fisglobal.com/



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