英国から学ぶ、政府主導のフィンテック革命 -TransferWise、イングランド銀行決済システムに非銀行で初の口座開設

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2018年4月18日、イギリスの中央銀行であるイングランド銀行(BOE: Bank of England)は、安価・迅速な国際送金サービスを提供している「TransferWise」が同中央銀行の有する民間銀行間即時決済システム(RTGS)内に、銀行免許を持たない非銀行系決済サービス会社で初めて決済口座を開設したことを発表しました。


イングランド銀行は同国が誇る世界最高峰のフィンテックエコシステムをさらに発展させるため、財務省をはじめとする英政府、金融当局などと協力体制を敷いており、その一つとして今まで大手数行にのみ認められていた同即時決済システムを非銀行にも開放する枠組みを構築してきました。


決済口座を開設したTransferWiseは、ポンド建て国際送金サービスを今まで以上に安く、スピーディに実施できるとし、大手行との益々の差別化が図られています。


イギリスの中央銀行、政府、当局が協力してフィンテックの発展を支える仕組みは、フィンテック企業から大手金融機関まで、幅広い金融業界のプレイヤーにとって好影響を作り出しており、他国政府の関心も非常に高まっています。これらの動きをモニタリングすることは、日本政府(財務省・金融庁)・日銀にとっても有意義な示唆を得られることでしょう。


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TransferWise クリスト・カーマンCEO
中央銀行は消費者が望む同日即時決済の実現を妨げている。なぜ、銀行だけが中央銀行内の決済口座をもつことができるのか、私はFRBに問い正したい。
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【目次】
✓イングランド銀行決済口座の非銀行系決済サービス会社への開放
✓イギリスの政府機関、イングランド銀行の協力体制
✓TransferWiseの決済口座開設によるメリット



<イングランド銀行決済口座の非銀行系決済サービス会社への開放>
✓イングランド銀行には、「RTGS」という即時グロス決済システム(Real Time Gross Settlement)があり、民間銀行同士の決済に利用されています。RTGSは、振替の指図がイングランド銀行に持ち込まれ次第一つ一つ即時に実行され、銀行間での口座振替に不可欠なシステムとなっています。2016年当時、RTGSに決済口座を持つ銀行は大手4行しかなく、決済口座を持たない銀行や非銀行系決済サービス会社は、これら4行を経由して口座振替を行っていました。


✓こうしたRTGSについて、イングランド銀行や金融当局(FCA:Financial Conduct Authority)はいくつかの課題があると考えていました。一つには、公正な競争環境における課題が挙げられています。RTGSにアクセスできる権限が銀行にしかなく、安価な決済サービスについて参入障壁がありました。また、年々増え続けるRTGS上の決済に対し、少数の民間銀行のシステム負荷が将来にわたり耐えうるかといったシステムリスクも課題とされていました。


✓こうした課題に対し、イングランド銀行は非銀行系決済サービス会社などの銀行以外の企業にもRTGSにアクセスする権限を与え、多数の企業がRTGS内に決済口座を開設することを期待しています。公正な競争を促進させるとともに、システムリスクの解消につながること、さらに革新的なサービスを武器に新規参入してくることは、ひいては消費者利益にもつながると考えられています。


✓これらを背景に、イングランド銀行は2016年にRTGSを柔軟化する方針を発表し、2017年夏には実現に向けた詳細な計画が発表されていました。



<イギリスの政府機関、イングランド銀行の協力体制>
✓ RTGS上に銀行以外の企業が決済口座を持つようにするため、イングランド銀行、財務省、FCA等が協力し合ってきました。イングランド銀行は、自行の有するRTGSにおけるシステム上の課題の解決を、財務省は関連法令の整備・改正を、FCAは非銀行系決済サービス企業(TransferWise)が安全にRTGSにアクセスできる監督体制を、それぞれ実施してきました。



<TransferWiseの決済口座開設によるメリット>
✓TransferWiseがRTGS上に決済口座を開設したことで、今まで他行に依頼していた決済指示を直接行うことができるようになります。つまり、同社の国際送金サービスにおいて、中間者であった他行を取り除くことができ、コストの低下やより素早い送金サービスを顧客に提供することができるようになります。TransferWiseのCEOは、RTGS内に決済口座を開設したことにより削減できたコストは、「顧客への手数料低下という形で還元させる」と述べています。


✓ TransferWiseのクリスト・カーマンCEOはイングランド銀行を中心としたイギリス政府、FCAの協力体制があったためRTGS上の決済口座を開設できたとし、政府の取り組みに感謝の意を表しています。一方で、「非銀行系決済サービス会社の参入により消費者利益の拡大は明らかであるにもかかわらず、なぜ他国の政府・中央銀行は銀行以外に決済口座を開設させないのか」と述べ、イギリス政府・イングランド銀行・FCAの取り組みを教科書として各国が取り入れるべきであると訴えています。


✓TransferWiseの国際送金サービスは、手数料が安く、90%が24時間以内に着金することから、世界中で200万人に利用されています。また、月間では15億ポンド以上もTransferWiseのプラットフォーム上で国際送金されています。手数料が安いと言いますが、同社によれば、一般的な銀行の国際送金サービスに比べて最大で8分の1(約12%)と非常に安価です。また、国際送金サービスは4~5日以上かかることも多いことから、1日以内に着金することは、正しくイノベーティブといえるでしょう。そして、銀行での国際送金サービスでは、送金時に伝えられていた手数料よりも高い手数料が実際に発生することも少なくないですが、TransferWiseではそのような手数料は発生せず、とてもクリアです。これらの理由から急激な勢いでユーザーが拡大してきました。


✓TransferWiseは、2010年にSkype出身者クリスト・カーマン氏が創設したロンドンに拠点を置くフィンテック企業です。Skypeはエストニア発の企業であることは有名ですが、当時エストニアの首都タリンで働いていたカーマン氏は、ロンドンに渡航する頻度が多く、当時のエストニアの通貨であったクローンを何度もイギリスのポンド口座に送金していました。タリンからロンドンまで、フライトで2時間ほどの距離にも関わらず、送金には一週間かかることもあり、また、不明瞭な送金手数料(Hidden Cost:隠れたコスト)が発生していることに不満を持ち、同じような思いを持つ人を助けられないかと考え、Skypeでも使用されているP2P技術を国際送金に応用しようと考えたのがTransferWiseのサービス開発のきっかけでした。



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TransferWise クリスト・カーマンCEO
中央銀行は消費者が望む同日即時決済の実現を妨げている。
なぜ、銀行だけが中央銀行内の決済口座をもつことができるのか、私はFRBに問い正したい。
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【まとめ】
✓イングランド銀行の決済システムに、非銀行系決済サービス会社で初めてTransferWiseが決済口座を開設
✓決済システムの銀行以外への開放には、中銀・政府・当局の協力体制が必要
✓新規参入が増加することで、システムリスクの低下、消費者利益の拡大につながる







関連記事「英中央銀行(Bank of England)が「フィンテックハブ」を設立 -ブロックチェーン技術と仮想通貨に着目」はこちら↓
http://fintechnewslondonfintechjagi.sokuho.org/article/bankofenglandfintechhubblockchainukdistributedledgertechnology.html


(参照: Bank of England「First non-bank payment service provider (PSP) directly accesses UK payment system」2018.4.18)
https://www.bankofengland.co.uk/news/2018/april/non-bank-psp-access-to-the-payments-system-announcement?sf87316405=1

(参照:Financial Times「TransferWise becomes first non-bank to join BoE payment system」2018.4.18)
https://www.ft.com/content/78886740-42e9-11e8-803a-295c97e6fd0b



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