急速な顧客拡大を続けるフランスのデジタル銀行Orange Bank


2017年にフランスの最大手通信会社Orangeが開始したデジタル銀行「Orange Bank」が急速な勢いで顧客を拡大しており、同国の銀行業界の間では破壊者(ディスラプター)となりうる脅威と見られつつあります。


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Orange Bank André Coisne CEO
フランスの銀行市場は、イノベーションの文脈において諸外国と比べて最も先進的な市場とは言えない。私たちは、これを顧客を拡大する大きなチャンスだと思っている。
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【目次】
✓急速な勢いで顧客拡大するOrange Bank
✓デジタル銀行の課題
✓フランスの銀行市場におけるディスラプション
✓フランスのモバイルバンキング
✓伝統的銀行の抱えるイノベーション課題
✓フランスの伝統的な銀行におけるデジタルイノベーション手法



<急速な勢いで顧客拡大するOrange Bank>
✓Orange Bankは、今年3月までの1年ほどの期間ですでにフランス市場で10万人の顧客を抱えるほどに急拡大しています。UBS銀行のアナリストによれば、Orange Bankと同じペースで顧客を拡大しているのは、フランスの大手行「Société Générale(ソシエテ・ジェネラル)」のデジタル銀行部門「Boursorama」と、イギリスのフィンテック企業「Revolut」とされ、他の2行もヨーロッパのフィンテック業界では非常に有名な企業となっています。


✓Orange Bankは、10年間で顧客200万人とする目標を掲げています。また、フランスの競合デジタル銀行であるBoursoramaについては、「最も安価なデジタル銀行」との看板を掲げて新規参入し、今年1月時点で130万人の顧客を有しており、2020年までに少なくとも200万人の顧客獲得を目指しています。数百万人規模の消費者であれば大手行からすると微々たるボリュームしかありませんが、この急速な勢いが脅威となっています。



<デジタル銀行の課題>
✓2017年まで、Orange BankとBoursoramaは利益は赤字となっています。専門家によれば、その主な原因は「顧客獲得にかかるコスト」で、一人当300ユーロと試算されています。Orange Bankでは、国内に通信会社の支店を650有しているとのアドバンテージはありますが、それでも新規顧客開拓を進めるために新規口座開設者に80ユーロをキャッシュバックするキャンペーンを実施しています。このキャンペーンは、今後5~6年にわたり利益に大きな影響を与えると予想されています。日本でもデジタル銀行やオンライン保険会社が新規参入してきたとき、多くの広告を見たのを記憶している人も多いのではないでしょうか。



✓創業直後のデジタル銀行は、まず顧客を拡大することが経営戦略の中心となる傾向があります。当初は利益を度外視し、一定規模の顧客基盤を獲得後に利益の高い商品の販売が行われます。上記のOrange Bankの例もそうですが、新規口座開設者に80ユーロをプレゼントし、顧客が普通口座しか利用しなければ利益はほとんど出ないどころかマイナスになります。今後は、クレジットカードや住宅・自動車ローン、保険なども販売されると見られています。また、こうした利益率を低下させるような顧客拡大方法の継続性については疑問視される声も聞かれています。デジタル銀行の体力が持たず、一定規模の顧客を獲得するまでに倒産することも想定されています。


<フランスの銀行市場におけるディスラプション>
✓BNP Paribas(BNPパリバ)のアナリストはこうしたフランス銀行市場のディスラプションの状況について「洗練されたオンラインサービスを安価で提供するデジタル銀行は、若年層を中心に伝統的な銀行の顧客を奪う」と予想しています。


✓昨今、フランスに限らず、デジタルイノベーションへの投資を拡大する一方で数百もの支店を閉鎖する大手銀行の動きは見られます。これらは、変化する消費者行動・ニーズ、および人工知能(AI)やブロックチェーンなどの先進ITを駆使したフィンテック企業の参入による激しい競争環境への対応と考えられます。とくにEUでは、2018年からPSD2(第 2 次決済サービス指)によりオープン API が事実上義務付けられていますが、要は、これによりフィンテック企業が新規参入しやすくなります。



<フランスのモバイルバンキング>
✓UBS銀行の調査によれば、フランスのモバイルバンキング利用者は、2017年で48%と前年比で約150%増加しています。なお、イギリスの同比率は53%となっており、フランスよりも進んだ市場と言えます。日本はというと、調査対象国で最低の23%しかありませんでした。


✓フランスでモバイルバンキング利用が拡大したことにより、定期的に支店を利用する顧客は2016年に比べてもマイナス40%ポイントとなる20%に減少しています。既存の銀行にとっては、この長引く超低金利環境下において、事業費削減は対処すべき重要な経営課題となっています。支店の利用者が減少したことにより支店を閉鎖すれば、銀行は人件費やオフィス維持費を削減することができます。


✓一方で、モバイルバンキングの普及により顧客一人当単価が下がるとの懸念も聞かれます。つまり、銀行のトップラインが悪化する可能性があります。たとえば、銀行の支店で自動車ローンを申し込みに行った場合、最終的に保険商品や投資性商品も抱き合わせて提案されることもあるでしょう。しかし、モバイルバンキング上で、目的以外の商品の購入を勧められたとしても、実際に購入する方はかなり少ないと想像されます。銀行にとっては人間の「プッシュ力」により、いかに顧客の潜在ニーズを引き出し提案に持っていくかが重要でしたが、モバイルバンキング上では有効性は低く、顕在化したニーズに合う商品しか販売できなくなると予想されています。



<伝統的銀行の抱えるイノベーション課題>
✓支店を閉鎖してモバイルアプリで顧客サービスを提供するとした場合、フィンテック企業と同様の開発スピードで、同レベルの洗練されたサービスを提供できるかが大きな課題となっています。伝統的な銀行には、「レガシーシステム問題」といわれるシステム上の課題や、官僚的な文化によりイノベーションを創出しにくい等の課題がよく聞かれます。これらの課題は、日本の銀行や他の金融機関も同様ではないでしょうか。



<フランスの伝統的な銀行におけるデジタルイノベーション手法>
✓官僚的な文化は意思決定を遅くすることから、デジタルイノベーション部隊を銀行本体から独立させる動きが見られ、Société Généraleはこの手法を取り入れています。独立させることで意思判断を早めることはできますが、一部のアナリストからは、それでも本体からの干渉は避けられず、意思決定が遅くなっている場合も散見されると指摘されています。


✓上記のほかに、外部のフィンテック企業に出資するなどし、自行の「お抱え」にしてしまう手法も採られています。BNPパリバやCrédit Agricoleがこの手法を採り入れています。こうすることで、銀行にとっては開発スピードを高められますが、フィンテック企業にとっては銀行からの指図や干渉をうけることから開発スピードが遅くなることがあります。開発が遅れてしまったがために、他の競合フィンテック企業に先を越され、特許を取られてしまえば元も子もありません。


✓両手法とも、メリットもデメリットもありますが、実行しないデメリットを考えれば、いずれか、あるいは別の方手法によるデジタルイノベーションは進めるべきではないでしょうか。あなたがお使いの銀行は、どのようにデジタルイノベーションを進めようとしていますか。


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Orange Bank André Coisne CEO
フランスの銀行市場は、イノベーションの文脈において諸外国と比べて最も先進的な市場とは言えない。私たちは、これを顧客を拡大する大きなチャンスだと思っている。
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関連記事「RevolutがInsurTech参入を発表」はこちら↓
http://fintechnewslondonfintechjagi.sokuho.org/article/458103291.html







(参照:Financial Times「Orange’s entry into digital banking forces old guard to react」2018.4.18)
https://www.ft.com/content/26a0ab74-336a-11e8-b5bf-23cb17fd1498



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